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大阪地方裁判所 昭和57年(行ウ)114号 判決 1985年7月30日

大阪市住之江区安立二丁目九番八号

原告

岸本國廣

右訴訟代理人弁護士

岩田研二郎

鈴木康隆

大阪市住吉区住吉二丁目一七の三七

被告

住吉税務署長

加藤辰己

右指定代理人

井口博

伊森操

宮本昭和

田中邦雄

主文

一  被告が原告に対し、昭和五五年一二月一五日付でした原告の昭和五二年分ないし同五四年分の所得税更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、昭和五二年分について事業所得金額が金二〇二万八〇一九円を超える部分、及び、同五四年分について事業所得金額が金一七七万一一四五円を超える部分は、いずれもこれを取消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

一  当事者双方の求めた裁判

1  原告

(一)  被告が原告に対し、昭和五五年一二月一五日付でした原告の昭和五二年分ないし同五四年分の所得税更正処分のうち、総所得金額が、昭和五二年分については金一〇二万四三〇八円を、同五三年分については金一〇二万円を、同五四年分については金一三〇万円を、それぞれ超える部分、及び、過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二  請求原因

1  原告は、印刷デザイン業を営むものであるが、昭和五二年分から同五四年分(以下、「本件各係争年分」という)までの所得税につき、別表(一)の「申告総所得金額」「申告による還付金の額に相当する税額」の各欄に記載のとおりの申告をした。

2  これに対し、被告は、昭和五五年一二月一五日付で、別表(一)の「更正総所得金額」、「更正による還付金の額に相当する税額」、「過少申告加算税額」の各欄に記載のとおりの各更正処分並びに各賦課決定処分(以下、右両処分を併せて「本件各更正処分等」という。)をした。

3  そこで、原告は、昭和五六年二月一二日、被告に対し異議申立をしたところ、被告は、同年五月一二日付で異議棄却の決定をしたので、原告は、さらに昭和五六年六月八日付で、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、昭和五七年八月一九日付で審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は、同年九月二四日、原告に送達された。

4  しかしながら、本件各更正処分等は、次の理由により違法であるから、取消されるべきである。すなわち、

(一)  本件各更正処分等の前提である調査手続には、次の如き違法がある。

原告は、営業上得る報酬について、多くの場合所得税が源泉徴収されているため、毎年確定申告の際に、還付金の還付請求をしてきたところ、所得税法施行令二六七条四項は、「還付金に係る金額の記載がある確定申告書の提出があつた場合は、当該金額が過大であると認められる事由がある場合を除き、遅滞なく還付の手続をしなければならない。」と定められているから、還付金は、すみやかに還付しなければならず、現に、被告は、昭和五〇年分までは、原告の請求に対し、毎年四月中に還付金の還付をしており、何ら問題はなかつた。

しかるに、被告は、昭和五一年分の原告の還付金請求について一年もその還付を遅滞するようになり、同五二年分については、原告の申告から七か月も経過した昭和五三年一〇月にその還付をし、同五四年分については、原告の申告から4か月を経過した昭和五五年七月末になつてその還付をした(なお、昭和五三年分は遅滞なく還付をした)。

原告は、右還付金の還付が遅れたことにつき、その都度被告に抗議をしてきたが、被告は、「調査をしないと還付できない。」と主張して、原告の抗議を入れなかつた。ところで、原告は、右還付金の還付が遅れながらも還付されたことにより、被告がその主張のおり原告の所得を調査した結果、原告の請求にかかる還付金が過大でないものと認めて右還付金を還付したものと理解していたから、被告としては、この原告の理解ないし信頼を保護すべき義務があるのであつて、さらに原告の所得を調査すべきではない。もしこのように解さなければ、行政庁が一旦申告の是認と理解されるような言動をとつた場合には、納税者は、申告を裏付ける資料を廃棄することがあり、その後において、納税者主張の所得を立証する手段を失うことになつて、不当な結果を招くからである。

ところが、被告は、昭和五五年八月になつて、突然その部下職員である新田係官をして、原告の本件各係争年分の所得税の調査をさせ、本件各更正処分等をするに至つたものであるから、右調査手続は、信義則に反する違法なものである。したがつて、本件各更正処分等は、右の点で違法であるというべきであるから、取消さるべきである。

(二)  また、本件各更正処分等は、いずれも原告の所得を過大に認定した違法がある。

5  よつて、原告は、本件各更正処分等の取消を求める。

三  被告の認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の事実は否認する。

四  被告の主張

1  原告は、大阪市浪速区日本橋五丁目三番六号の栄ビルにおいて、「スタジオランダム」の名称で、衣料品の織りネームのデザイン、ラベル、パンフレツト及び、チラシなどの版下を製作している。

そして、原告は、依頼先からの電話により、原告自ら出向いて注文を受け、写植を外注するほかはほとんど手作業によつて、受注品を製作している白色申告者である。

2  本件更正処分等の経過

被告は、原告の昭和五二年分ないし同五四年分の所得税の調査のため、昭和五五年八月一三日以降、次のとおり、数回にわたり、部下職員である大蔵事務官新田陽一郎(以下「新田係官」という。)を原告の自宅(大阪市住之江区安立二丁目九番八号)へ臨場させ、実地調査を行わせた。

(1)  新田係官は、昭和五五年八月一三日午後二時ごろ、原告の住所地へ臨場したが、原告は留守であつたため、その妻訴外岸本由利子(以下「由利子」という。)に面接し、原告の昭和五二年分ないし同五四年分の所得税の調査に来た旨を告げたところ、由利子は、原告の事業のことは分からないということであつたため、<1>翌一四日再度臨場するので原告に在宅していてほしい、<2>当日事業に関する帳簿書類を調査したいので取りそろえて提示されたい旨及び<3>右日時が都合の悪い場合には、原告の都合のよい日時を連絡されたい旨、原告へ伝えるよう依頼して辞去した。

そしてさらに、同日中に原告の事務所へ電話をしたところ、直接原告と通話することができたので、<1>原告の昭和五二年分ないし同五四年分の所得税の調査を行う、<2>そのため原告の都合のよい日を知らせてほしい、<3>調査当日、当該年分の事業に関する帳簿書類を提示してほしい旨を申し入れたが、当日は原告からは確たる回答がなかつた。

(2)  翌一四日、原告から新田係官に対し電話があり、八月二三日午前一〇時頃新田係官が原告の待ち受けるその住所地へ臨場するとの口約ができた。その際にも、新田係官は、事業に関する帳簿書類の提示方を原告へ申し入れておいた。

(3)  昭和五五年八月二三日、新田係官は、約束どおり、原告の住所地へ臨場したところ、そこには原告のほか住之江民主商工会事務局員訴外石橋某ほか三名が、新田係官の臨場を待ち受けていた。

新田係官は、原告に対し、昭和五二年分ないし同五四年分の所得税の調査に来た旨を告げ、右年分の原告の事業に関する帳簿書類、確定申告の基礎となつた資料の提示を求めたが、原告は、右帳簿を提示せず、<1>右年分の所得税については、既に税額の還付を受けているのであるから、調査は終了しているのではないか、<2>いかなる規定に基づいて調査するのか、と右石橋某ほか三名とともに抗議するのみで、調査に全く応じようとしなかつた。

そのため、新田係官は、当日は調査を行えないままに、原告方を辞去せざるを得なかつた。

(4)  同年九月一七日、新田係官は、再び原告の自宅へ臨場したが、原告、由利子ともに不在であつた。

(5)  同年一〇月六日さらに新田係官は原告の自宅へ臨場したが、この日も原告、由利子ともに不在であつた。

そこで、<1>一〇月九日午前一〇時頃臨場するから在宅していてほしい、<2>当日事業に関する帳簿書類を調査したいので取りそろえて提示されたい旨、及び、<3>右日時が都合の悪い場合には、原告の都合のよい日時を連絡してほしい旨を記載した連絡票を戸口へ差し入れて辞去した。

しかしながら、同九日までに原告からは何の連絡もなかつた。

(6)  同月九日午前一〇時ごろ、新田係官は、連絡票により連絡していたとおり、原告の自宅へ臨場したところ、原告のほか石橋某が待機していた。

そして、原告は、新田係官が行つている調査は、違法な調査であるから協力できない、帳簿書類は提示できないと繰り返し、調査に抗議するのみで、全く調査に応じなかつたのである。

かかる状況下においては、到底調査は行えないと判断した新田係官は、帳簿書類、資料等を提示されないのであれば、国税側の判断に基づいて調査する以外にない旨を告げて、原告の住所地を辞去した。

(7)  さらに、原告を説得し調査について協力を得たいと考えた新田係官は、同年一一月二一日、それまでの調査結果をまとめて原告の自宅へ臨場したが、その日も、原告、由利子ともに不在であつた。

そこで、新田係官は、<1>調査結果を説明したいので、一一月二八日午後一時ごろ住吉税務署までご足労願いたい、<2>当日都合が悪い場合は原告の都合のよい日を連絡してほしい旨を記載した連絡票を戸口へ差し入れて辞去した。

しかしながら、原告からは何の連絡もなかつた。

以上のように、新田係官は、再三帳簿書類等の提示を求め調査に協力するよう説得したにもかかわらず、原告は、本件各係争年分の事業に関する帳簿書類等を一切提示せず、事業内容についても、具体的な答弁を行わず、右係官の調査に全く協力しなかつた。

そこで、被告は、やむを得ず、原告の取引先等を調査し、その結果に基づいて、原告の本件各係争年分の所得金額を算定し、本件各更正処分等をしたものである。

3  なお、原告の昭和五二年分及び同五四年分の還付金の還付が数か月遅れたことにつき、原告主張のような違法はない。

すなわち、税務署長は、還付請求にかかる還付金が過大であるとの疑いがある場合には、還付金の還付を留保できるから、被告が原告の請求にかかる昭和五二年分及び同五四年分の還付金に疑義があるとして、還付を留保した結果、数か月遅れて原告に還付金を還付したとしたも何ら違法ではない。

また、所得税法には、税務署長が還付をした後には、当該年分の税務調査ができないとする規定はなく、また、同法は、申告納税制度を採用し、納税義務者の納付すべき税額は、その者の申告によつて確定することを原則とはしているが、最終的な税額の確定は、税務署長に留保されているのであり、税務署長が税額確定のために行う調査の時期、範囲、程度及び手段等は、社会通念上相当なものである限り、すべて税務署長の合理的な裁量に委ねられているものである。したがつて、被告が、原告の本件各係争年分の所得税について、還付金を還付した後に、税務調査を行つたとしても、何ら違法ではない。

4  次に、原告の本件各係争年分の事業所得金額は、次のとおりであるから、その範囲内でなされた本件更正処分等は、いずれも適法である。なお、右事業所得金額の計算の明細は、別表(二)に記載のとおりである。

(一)  事業所得金額

昭和五二年分 金二三二万四五〇九円

昭和五三年分 金二三一万七四九九円

昭和五四年分 金二一二万六八八三円

(二)  一般経費

別表(二)に記載の本件各係争年分の一般経費は、別表(二)に記載の本件各係争年分の原告の売上金額に、次のとおりの一般経費率を乗じて算出した。

右一般経費率は、別表(三)に記載の原告の昭和五一年分の収支計算における経費の額の合計金三三一万三一五六円のうち一般経費の額金三七万〇〇六四円が、その売上金額金四八九万二〇五〇円に占める割合を計算して算出したもので、その数値は、七・五六パーセントである。

(三)  外注費

別表(二)に記載の本件各係争年分の外注費のうち、昭和五四年分の金二七万一七五〇円は実額である。昭和五二年及び同五三年分の外注費は、次のとおりに算出した。すなわち、昭和五一年分の外注費の額金七七万三三二〇円が同年分の売上金額金四八九万二〇五〇円に占める割合一五・八一パーセントと、昭和五四年分の外注費の額金二七万一七五〇円が同年分の売上金額金三〇一万三四五〇円に占める割合九・〇二パーセントを単純平均した比率一二・四二パーセントを本件各係争年分の売上金額に乗じて算出したものである。

(四)  給料資金、地代家賃

別表(二)に記載の本件各係争年分の給料賃金及び地代家賃は、いずれも実額である。

5  原告の本件各係争年分の還付金の額に相当する税額及び過少申告加算税の額は、次のとおりであつて、その計算の明細は、別表(五)に記載のとおりである。

(一)  還付金の額に相当する税額

昭和五二年分 金一五万五〇九〇円

昭和五三年分 金一三万四五七六円

昭和五四年分 金五万五七七五円

(二)  過少申告加算税額

昭和五二年分 金七八〇〇円

昭和五三年分 金六二〇〇円

昭和五四年分 金七二〇〇円

五  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1の事実については認否をしない。

2  同2・3の事実は否認する。

3  同4の冒頭及び(一)の事実のうち、本件各係争年分の原告の売上金額、給料賃金、地代家賃が別表(二)の「売上金額」、「給料賃金」、「地代家賃」の各欄に記載のとおりの額であることは認めるが、別表に関するその余の主張事実(別表(二)に記載の各金額)は争う。

同4の(二)の事実のうち、昭和五一年分の原告の売上金額が、別表(三)の「売上金額」の欄に記載のとおりの額であることは認めるが、その余の事実は否認する。

同4の(三)の事実は否認する。

同4の(四)の事実は認める。

4  同5の事実のうち、本件各係争年分の原告の医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、扶養控除、基礎控除、控除額合計の額が、それぞれ別表(五)の各項目該当欄に記載のとおりの額であることは認めるが、その余の事実は否認する。

六  原告の反論

1  国税通則五六条は、還付金があるときは、遅滞なく金銭で還付しなければならない旨規定しているところ、これは、納税申告により、納付すべき税額が確定した場合には、右を超える源泉徴収税額については、国が保有する正当な理由がなくなるため、不当利得となるその還付金を納税者に返還することにしたものである。したがつて、確定申告書の提出と同時に還付請求権が発生するので、厳密に言えば直ちに還付しなければならないところ、大量の確定申告書の整理に事務手続上時間がかかるため、実情に即して、「直ち」にではなく、「遅滞なく」と多少の時間的余裕を置くことができるものとしたものである。

そして、所得税法施行令二六七条四項にいわゆる「還付にかかる金額が過大であると認められる場合」とは、確定申告書の記載自体に計算の誤謬があり、申告書の記載から、客観的に過大であると判断できる場合のみを言い、単に過大還付の疑いがある場合は、これに含まれないものというべきである。

したがつて、本件において、原告の度重なる還付金の請求にも拘らず、被告がこれを数か月も遅滞したことは、違法というべきである。

2  一般経費率

(一)  被告主張の如く、原告の本件各係争年分の一般経費を算出するにつき、一般経費率七・五六パーセントを適用することは、全く合理性がない。

すなわち、別表(三)に記載の原告の昭和五一年分の一般経費は、現実の経費の一部に過ぎないのであるから、本件各係争年分の経費を推計する合理的な基準とは、なり得ないのである。昭和五一年分の所得税の確定申告については、還付金返還が長期間遅滞するという事態が発生した後、被告から原告に対し、税務調査があつたため、原告が被告の形だけの税務調査に応じた上で、原告の申告額を若干増額することによつて、事態を解決する旨の合意が、原被告間に成立した。そして、右合意に基づき、被告の部下職員である万字係官が、原告の自宅に来訪し、原告の保管していた資料の提示を受けて、その調査を終えたものであるところ、別表(三)の「一般経費」欄に記載の一般経費は、右調査に基づくものであるが、原告は、大阪市浪速区にも事務所があり、一般経費や外注費の資料は、原告の自宅のみならず、右浪速区の事務所にも保管しているものが多かつたのである。したがつて、別表(三)の「一般経費」欄に記載の一般経費は、原告の自宅に保管されていた資料にのみ基づくもので、大阪市浪速区の事務所に保管されていた資料に基づくものは含まれていないから、原告の昭和五一年分の経費の全部ではなく、その一部に過ぎず、不当に低いものであり、殊に、旅費交通費、接待交際費は万字係官が不当に低く認定したものである。

また、昭和五一年分の原告の一般経費が低かつたのは、原告が、訴外池田一彦と共同でその営業を行つていたことによるものである。

ちなみに、本件につき、国税不服審判所において採用された原告の同業者のみ一般経費率は、昭和五二年分が二二・二八パーセント、同五三年分が二四・七二パーセント、同五四年分が一九・二六パーセントであるから、本訴において被告の主張する原告の昭和五一年分の一般経費率は、右同業者の一般経費率に比較して、異常に低いのである。

したがつて、昭和五一年分の原告の一般経費の額が別表(三)の「一般経費」欄に記載のとおりの額であるとして、これを基準に算出した一般経費率七・五六パーセントを用いて、本件各係争年分の原告の一般経費の額を算出することは、全く不当であつて、合理性がない。

(二)  次に、原告の昭和五五年分の一般経費については、資料の裏付けがあり、これを正確に把握できるところ、右昭和五五年分の一般経費は、別表(六)の一般経費の欄に記載のとおりであつて、その売上に占める一般経費率は、別表(六)に記載のとおり三二・一六パーセントである。

3  外注費率

被告は、原告の本件係争各年分の外注費率を一二・四二パーセントとしているが、右の外注費率も、原告の通常の営業に占める外注の割合にくらべ、低きに過ぎる。

原告の昭和五五年分の外注費は、別表(六)に記載のとおりであつて、その売上げに占める外注費率は、別表(六)に記載のとおり二〇・九三パーセントである。

また、原告の昭和五二年分の外注費は、実額で金八一万一六七〇円であつて、その内訳は、次のとおりである。

イチイ 金六六万四一七〇円

笙文堂 金一〇万七五〇〇円

アドフオト・タカギ 金四万円

以上合計金八一万一六七〇円

4  事業所得

前記原告の昭和五五年分の一般経費率及び外注費率を用いて、原告の本件各係争年分の一般経費及び昭和五三年分及び同五四年分の外注費を算出すると、その額は、別表(七)の「一般経費」及び「外注工賃」の各欄に記載のとおりの額となるから、原告の本件各係争年分の事業所得額は、別表(七)に記載のとおり、昭和五二年分は金八二万七八〇七円、同五三年分は金一一五万九九七四円、同五四年分は金一〇二万六六一〇円となる。

よつて、本件各更正処分等は、原告の所得を過大に認定した違法がある。

七  原告の反論に対する被告の認否及び反論

1  原告の反論はすべて争う。

2  一般経費率

(一)  被告が適用した原告の本件各係争年分の一般経費率七・五六パーセントは、被告の行つた原告の昭和五一年分の所得税調査額に基づく一般経費の額の売上金額に対する割合であるが、昭和五一年分は、本件各係争年分の直近年分であり、その後の原告の営業の実態にもさしたる変動はなく、また、その金額も、所得税の調査により、確認されたものであるから、右一般経費率七・五六パーセントは、同業者の一般経費率よりも、原告の事業実績に基づき、本件各係争年分の原告の事業の実態に近似しており、合理性がある。

(二)  原告は、別表(三)に記載の昭和五一年分の原告の一般経費は、原告の自宅に保管していた資料にのみ基づくもので、原告の昭和五一年分の一般経費の一部に過ぎないと主張する。

しかしながら、被告の部下職員は、原告の昭和五一年分の所得税の調査において、再三原告方に臨場し、原告の母親に対し、口頭或いは書面で、帳簿書類の準備方を依頼し、また、原告に対する面接調査の際には、領収書等が揃つていないとの原告の申立てにより、整理期間を約一週間置いた上で、再度臨場して調査したものである。したがつて、被告の部下職員は、原告から、すべての資料の提示を受けた上、この資料に基づいて原告の所得金額を算定したものであり、また、原告も、右被告の部下職員からの所得金額の説明に対し、その調査結果を了承して、修正申告書を提出したのである。したがつて、別表(三)に記載の原告の昭和五一年分の一般経費は、一部の資料に基づくものではない。

(三)  原告主張の訴外池田一彦は、原告の雇人として原告の営む事業に従事していたものであつて、原告とその事業を共同で行つていたものではない。

(四)  次に、原告が本件各更正処分等をする際に採用した同業者率は、本件各係争年分の異議決定書(甲第二号証の一ないし三)に記載のとおり、原告の本件各係争年分の所得金額を推計するに当り、同業者の平均所得率(昭和五二年分は七七・三パーセント、同五三年分は七五・二七パーセント、同五四年分は八〇・七四パーセント)を適用したところ、右同業者の経費率は、昭和五二年分は二二・六二パーセント、同五三年分は二四・七三パーセント、同五四年分は一九・二六パーセントである。しかし、右同業者の経費率は、地代家賃以外の経費を一般経費としているので、外注費も一般経費に含まれていると認められるところ、別表(二)の「外注費」欄に記載の外注費を右同様の「一般経費」の欄に記載の一般経費に加えて、原告の本件各係争年分の一般経費率を算出すると、その数値は、昭和五二年分は一九・九八パーセント、同五三年分は一九・九八パーセント、同五四年分は一六・五八パーセントとなり、右一般経費率は、それ程低いとはいえないのである。

(五)  次に、事業所得金額を実額で計算するためには、納税者が収入及び支出を明確に記載し、もつて取引の実態を正確に記帳した諸帳簿の整備、保存を要するものであり、特に、領収証等の証拠書類が不備なものの支払事実の確認には、少なくとも現金出納帳の提出が不可欠で、かつ、その記載が正確であることを立証して初めて確認できるものである。

ところで、原告は、昭和五五年分について、右帳簿及び収入に関する書証を全く提出せず、支出に関する書証(甲第四号証ないし第四号証の四)しか提出していないから、昭和五五年分の一般経費を実額で計算することはできない。

(六)  のみならず、原告が昭和五五年分の一般経費の証拠として提出する甲号各証は、次のとおり、信用のできないものである。すなわち、

(1) 甲第四号証の報告書について

家事関連費については、所得税法四五条一項、同法施行令九六条に、「主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合」と規定されており、また、「主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち、当該業務の遂行上必要な部分が五〇パーセントを超えるかどうかにより判定するものとされているから、事業遂行上直接必要であつたことが明らかにされる必要がある。

ところで、原告は、大阪市浪速区に事業所を賃借しているから、右事業所がその営業活動の主たる場所であり、原告が自宅で仕事をするにしても、極めて稀れである。したがつて、原告が自宅で仕事をすることが稀れにあつたとしても、自宅の電気代、ガス代等は、その必要経費として計上すべきではない。

(2) 材料、消耗品費(甲第九号証ないし第二二号証)について、

右甲号各証の大部分は、購入品名が不明で、事業用か家事用か判明しないから、右甲号各証から原告の必要経費を認めることはできない。

(3) 接待交際費(甲第二三号証ないし第二九号証)について

接待交際費は、接待先、接待内容を明らかにし、専ら事業の遂行上の必要に基づくものと考えられる場合に限つて、必要経費となるのである。しかるに、甲第二三号証は、請求書の総括表のみで購入品目が不明であるし、その購入先の天美屋は、原告の自宅近くにあるから、右甲第二三号証の酒類の購入費は、家事費というべきである。

甲第二九号証の一ないし二三の出金伝票は、原告が記入したものであり、他にそれらの裏付けとなる領収証もしくは現金出納帳等、日々の収入金額及び支出金額を記録した帳簿はないから、右出金伝票記載の金額を、接待交際費と認めることはできない。

また、料理飲食等消費税がかかると思われる甲第二九号証の二、四、六、一三、二三の関係については、地方税法一二九条一項により、特別徴収義務者は、領収証を交付すべき旨が規定されているから、領収証によつて、右金額を明らかにし得た筈であるのに、原領収証は提出されていないから、右甲号各証の記載内容は信用し得ないものというべきである。

(4) 旅費交通費(甲第三〇号証の一ないし二八三)について右甲号各証のなかには、摘要欄の行先及び金額を抹消してあるか、合計金額が訂正されていないもの(甲第三〇号証の二六、二七、三九、四二、四四、四六)、一定期間を記憶に基づいて記載したと認められるもの(甲第三〇号証の一七五)、摘要欄に「外注先に行つた」旨の記載があるが、行先に所在する外注先の記載がないもの(甲第三〇号証の一九一)、乗車区間は同一であるが、金額が異なるもの(恵美須-野田阪神について、甲第三〇号証の三三、三五は金二八〇円、同号証の五一、七六、八二は金二四〇円)があり、右甲号各証の信用性は極めて乏しい。

また、タクシーを利用した分については、領収証を受けとることが可能であるから、領収証をもつて交通費を立証することができる筈であるのに、領収証の提出がないから、右タクシー代の支出に関する記載部分は信用できない。

(5) 公租公課(甲第三一号証の一ないし一一)について

右甲号各証には、いずれも領収年月日の記載がなく、何時の年分の領収証か全く不明である。

(6) 雑費(甲第三二号証)について

甲第三二号証によると、購入品目が薬であるから、業務の用に直接供した費用とは認められない。

(7) 研修費(甲第三三号証ないし第四一号証)について

甲第三三号証ないし第四四号証に記載の教育機器は、英会話教育機器であるテープレコーダー、テープ、テキスト一式であるから、これらは、原告の業務の遂行上直接必要なものではなく、いわゆる個人の趣味として購入したものというべきであり、必要経費とは認められない。

(七)  減価償却費

原告主張の減価償却費金七万五〇〇〇円については、その減価償却資産の種類、取得年月日、取得価額のいずれも明らかでないので、右減価償却費を認めることはできない。

3  外注費

(一)  イチイの領収証(甲第四二号証の一ないし一二)のなかには、支払年月日が不明なもの(甲第四二号証の六)、通常の支払日は月末になつているのに、昭和五五年八月一日に支払つたことになつているものがあり(甲第四二号証の八)、領収証の記載に不自然なものがあつて、その記載内容は信用できない。

また、原告の昭和五五年分の外注費は特に多かつたのであるから(甲第四号証参照)、昭和五五年分の外注費率をもつて、原告の昭和五三年分及び同五四年分の外注費を算出することは、合理的ではない。

(二)  昭和52年分の外注費が、実額で金八一万一六七〇円もある筈はない。

4  なお、後記原告の再反論は争う。

八  被告の反論に対する原告の認否及び再反論

1  被告の反論はすべて争う。

2  本件について、国税不服審判所において採用された原告の同業者の一般経費率を算出するに当つては、被告主張の如く、外注費は含まれていない。

一般に、事業所得の計算をする際には、外注費は、一般経費と区別して、特別経費として扱うのが通例であり、現に本訴でも、被告は、現にの外注費を特別経費として、一般経費と区別してとらえている。また、原告に対する昭和五五年分の更正決定に対する国税不服審判所の裁決(甲第五〇号証)でも、その判断において、一般経費として処分庁の主張した一般経費率(二五・〇九パーセント)を採用した上で、外注費は、別に特別経費として、金七一万七五〇〇円を認定しているのである。このように、外注費と一般経費とを別に認定したのは、処分庁の主張する同業者の一般経費率が、その申告書などの資料からみても、外注費を含んでいなかつたからであり、一般経費率には、外注費が含まれていないのが通例である。

本件について、前記国税不服審判所が採用した一般経費率一九・二六パーセントないし二四・七一パーセントは、原告の前記一般経費率二五・〇九パーセントとはほぼ近似しており、これも外注費を含んでいないものと考えるのが自然である。

なお、本件各更正処分等の裁決(甲第三号証)の判断で、特別経費としての外注費が上つていないのは、本件各係争年度について、原告が国税不服審判所に外注費に関する資料を提出しなかつたためで、昭和五五年分のように、外注費の資料が提出されておれば、当然に、一般経費と特別経費が必要経費として認定されたものである。このことからも、本件各係争分について、国税不服審判所で採用された一般経費率には、外注費は含まれていなかつたものというべきである。

九  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告は、印刷デザイン業を営むものであるが、本件各係争年分の所得税につき、別表(一)の「申告総所得金額」、「申告による還付金の額に相当する税額」の各欄に記載のとおりの申告をしたこと、これに対し、被告は、昭和五五年一二月一五日付で、別表(一)の「更正所得金額」、「更正による還付金の額に相当する税額」、「過少申告加算税額」の各欄に記載のとおりの本件各更正処分等をしたこと、そこで、原告が、昭和五六年二月一二日、被告に対し異議申立をしたところ、被告は、同年五月一二日付で異議棄却の決定をしたので、原告は、さらに昭和五六年六月八日付で、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、昭和五七年八月一九日付で審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本が、同月二四日、原告に送達されたこと、以上の事実については、いずれも当事者間に争いがない。

二  次に、原告が、大阪市浪速区内の栄ビルにおいて、「スタジオランダム」の名称で、衣料品の織りネームのデザイン、ラベル、パンフレツト、及び、チラシなどの版下を製作していること、原告は、依頼先からの電話により、原告自ら出向いて注文を受け、写植を外注するほかはほとんど手作業で、受注品を製作している白色申告者であること、以上の事実については原告において明らかに争わないから、これを自白したものと看做す。

そして、証人新田陽一郎の証言、原告本人尋問の結果(但し、後記信用しない部分は除く)、並びに、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

1  被告は、原告の本件各係争年分の所得税の調査のため、その部下職員である新田陽一郎係官を、原告の自宅(大阪市住之江区安立二丁目九番八号)に赴かせて、実地調査をすることにした。

そこで、新田係官は、昭和五五年八月一三日に、原告の自宅に赴いたところ、原告は留守であつたので、原告の妻に、本件各係争年分の所得税の調査のために来た旨告げたが、同人は、原告の事業のことについてはわからない旨述べた。そこで、新田係官は、右原告の妻に、翌一四日、再び所得税の調査に来るので、原告に在宅しているよう伝えて欲しい、また、調査に必要な事業に関する帳簿等を用意しておくよう伝えて欲しい旨述べて、帰つた。

2  翌八月一四日に、原告から新田係官に対し、電話があつたので、新田係官は、原告と打合わせの上、同年八月二三日に、原告の自宅で所得税の調査を行うことになつた。そこで、新田係官は、右八月二三日に、原告の自宅に赴き、原告に対し、本件各係争年分の事業に関する帳簿書類、確定申告の基礎となつた資料の提示を求めたが、原告は、本件各係争年分については、既に税額の還付を受けているので、調査は終了しているのではないか等と述べて、帳簿書類等資料の提示をしなかつたので、新田係官は、その日は、調査ができないままに帰つた。

3  ついで、新田係官は、同年九月一七日、及び、同年一〇月六日に、原告の自宅を訪れたが、いずれも、原告が不在で調査ができなかつた。

さらに、新田係官は、同年一〇月九日、原告の自宅に赴き、原告に会つて所得税の調査をしようとしたところ、原告は、右新田係官に対し、右調査は違法であるから、調査には協力できない、また、還付金の還付が遅滞した理由を明らかにしない限り、帳簿書類等資料の提示はできないと述べたので、新田係官は、その日も調査ができないままに帰つた。

4  新田係官は、その後同年一一月二一日にも、原告方に赴いたが、原告が不在であつて、調査ができなかつた。

5  そこで、原告は、止むなく、原告の取引先等を調査し、その結果に基づいて、原告の本件各係争年分の所得税額を算定し、本件各更正処分等をした。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に認定を覆すに足りる証拠はない。

三  ところで、原告は、被告に対し、昭和五二年分及び同五四年分の還付金の還付請求をしたところ、被告は、還付金の還付を著しく遅滞し、しかも、右還付金の還付を現実にした後に、原告の本件各係争年分の所得税の調査をしたのであるから、右調査手続は違法であり、したがつて、本件各更正処分等も違法であるとの主張をしている。

しかしながら、還付金の還付が遅れ、かつ、現実に還付金を還付した後において、被告が右還付金の還付にかかる事業年分の所得税の調査をすることが、違法であるとは解し難い。のみならず、仮に、右調査が違法であるとしても、右の程度の違法は、本件各更正処分等を違法ならしめるものではないと解すべきである。けだし、国税通則法二四条所得税法二三四条ないし二三六条等に規定された税務調査の手続は、課税庁が課税要件の内容をなす具体的事実の存否を調査するための手続に過ぎないのであつて、この調査手続自体が課税要件となるものではないし、また、もともと更正処分等の取消訴訟は、客観的に所得の有無を争う訴訟であると解すべきであるから、違法な手続によつて収集した資料に基づく課税処分であつても、右違法が極めて重大な場合とか処分の内容に影響を及ばすような場合は格別、そうでない限り、右課税処分が客観的な所得に合致する限り、これを違法として取消す必要はないと解すべきであるからである。

よって、右の点に関する原告の主張は失当である。

四  そこで、いかに、原告の本件各係争年分の事業所得金額について判断する。

1  売上金額

原告の売上金額が、別表(二)の「売上金額」欄に記載のとおり、昭和五二年分は金五六二万四二三〇円であり、昭和五三年分が金三四九万六〇〇〇円であり、昭和五四年分が金三〇一万三四五〇円であること、以上の事実については、当事者間に争いがない。

2  一般経費

原告の本件各係争年分の一般経費については、これを実額で認め得る証拠はないから、推計によらざるを得ないところ、右推計に当つては、原告の本件各係争年分の直近の年分の一般経費の実額が認定できれば、これを基準として、本件各係争年分の一般経費を推計するのが合理的である。そこで以下に、原告の昭和五一年分及び同五五年分の一般経費率等について判断する。

(一)  原告の昭和五一年分の一般経費率

(1) 売上金額

原告の昭和五一年分の売上金額が金四八九万二〇五〇円であることは、当事者間に争いがない。

(2) 一般経費

成立に争いのない甲第四号証の一、二、証人万字博の証言、並びに、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。すなわち

(イ) 被告の部下職員である万字博係官は、昭和五二年一〇月下旬頃から同五三年三月上旬頃まで、前後六回に亘り、原告の自宅を訪れ、そのうち三回は原告と直接会つて、原告の昭和五一年分の所得税の調査をしたところ、その間において、原告と直接会えなかつたときは、原告の母に、調査に必要な帳簿書類等の資料を取り揃えておくよう原告に伝えて欲しい旨のことを述べた。

(ロ) 次に、万字係官は、右調査において、第五回目に原告方を訪れた際に、原告から昭和五一年分の事業に関する帳簿書類、領収証等の提示を受けて、売上金額や必要経費等の調査をした。

(ハ) 右調査に際し、材料費、通信費、消耗品費、雑費、外注費等については、領収証等でその額が確認できたけれども、旅費交通費、接待交際費、給料賃金、地代家賃等については、領収証等の提示がなかつたので、旅費交通費及び接待交際費は、原告主張の額のうち、合理的と考えられる範囲で認めることにし、また、地代家賃は、従前からの保存書類によつて、確認し、給料については、従業員の確定申告書によつて確認したところ、その額は、別表(三)の「一般経費」及び「特別経費」の各欄に記載のとおりの額である。

(ニ) 原告は、万字係官の認定した経費の額に納得し、最終的には、これに基づいて、修正申告をした。以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) もつとも、原告は、別表(三)の「一般経費」の欄に記載の原告の昭和五一年分の経費は、原告の自宅に保管されていた資料のみに基づくものであつて、大阪市浪速区にある原告の事務所に保管されていた資料に基づくものは含まれていないから、原告の昭和五一年分の経費の一部であつて、全部ではなく、殊に、旅費交通費、接待交際費は不当に低いものであると主張し、原告本人尋問の結果中には、右原告の主張事実に副う趣旨の供述がある。

しかしながら、前記認定のとおり、万字係官は、前後六回に亘つて、原告の自宅を訪れて、原告の昭和五一年分の原告の所得税の調査をしているのであるから、他に特段の事情のない限り、原告の主張の事務所に保管されていた資料も、原告において、自宅に持ち帰り、これを提示して、その経費の説明をしたとみるのが経験則に合致するし、また、所得税の調査を受けた納税者が、一般経費の存在を容易に証明する資料があるのに、右資料を提示して一般経費の存在を主張することをせずに、たやすく修正申告に応ずるというようなことも、一般的にはあり得ないとみるのが合理的であるから、前記原告の主張事実に副う原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。よつて、右原告の主張は失当である。

(4) また、原告は、昭和五一年分の原告の一般経費が低かつたのは、原告が訴外池田一彦と共同でその営業を行つていたことによるものであると主張し、原告本人尋問の結果中には、右原告の主張事実に副う趣旨の供述がある。

しかしながら他方、成立に争いのない乙第一四、一五号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、訴外池田一彦は、昭和五一年分の所得については、原告に雇われていたことを前提とし、その所得を給与所得として所轄税務署長に対し確定申告をしていることが認められるから、訴外池田一彦が原告と共同でその営業を行つていたとの事実に副う原告本人尋問の結果はたやすく信用できないものというべく、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて、右原告の主張は失当である。

(5) そうとすれば、原告の昭和五一年分の一般経費は金三七万〇〇六四円というべきであつて、右一般経費が、同年分の売上金額金四八九万二〇五〇円に占める割合すなわち一般経費率は、七・五六パーセントというべきである。

(6) なお、原告は、前記原告の昭和五一年分の経費率七・五六パーセントは、本件各係争年分の原告の同業者の一般経費率二二・二八パーセント、二四・七二パーセント、一九・二六パーセントに比し、低きに過ぎるから、別表(三)の「一般経費」の欄に記載の一般経費を基準として算出した一般経費率を用いて、原告の本件各係争年分の一般経費を算出することは合理的でなく、不当であると主張する。しかし、別表(三)の「一般経費」欄に記載の経費は、前記1に認定の経過によつて把握されたものであるから、他に余程強力な反証がない限り、別表(三)の「一般経費」欄に記載の一般経費は、原告の実額であると認めるのが相当であるから、単に、原告主張の如き原告の一般経費率が他の同業者に比べ低きに過ぎるとの一事をもつて、直ちに後記の様な方法により、右原告の昭和五一年分の一般経費率を用いて、原告の本件各係争年分の一般経費を算出することが不当であるとはいい難い。

よつて、右の点に関する原告の主張も失当である。

(二)  原告の昭和五五年分の一般経費率

(1) 売上金額

成立に争いのない甲第五〇号証、原告本人尋問の結果、並びに、弁論の全趣旨によれば、原告の昭和五五年分の売上金額は、金三四二万八〇六〇円であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2) 公租公課

原告は、昭和五五年分の原告の公租公課は、金三万三六〇〇円であると主張するが、右原告の主張事実に副う原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第四号証の記載内容、及び、原告本人尋問の結果は、たやすく信用できない。

また、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三一号証の一ないし一一によれば、原告は、商工新聞代として毎月金二八〇〇円を住之江民主商工会に支払つたことが窺われるけれども、右甲号各証の領収証によれば、右各領収証には、その作成年月日が全く記載されていないことが認められるから、右各領収証に記載の金員が昭和五五年中に支払われたものとはたやすく認め難い。のみならず、右各領収証に記載されている商工新聞代が、原告の事業に必要な公租公課であるかどうかも疑問というべきである。

そして、他に原告主張の公租公課を認めるに足りる証拠はないから、右原告のの主張は失当である。

(3) 光熱費

前掲甲第四号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六号小の一ないし一一、原告本人尋問の結果によれば、原告は、大阪市浪速区内の事務所においてその事業を営み、右事務所において使用した光熱費として、昭和五五年中に、合計金六万二五六七円を支払つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

また、前掲甲第四号証、成立に争いのない甲第五号証の一ないし六によれば、原告は、昭和五五年中には、その自宅において使用した光熱費として、合計金六万二六四九円を支払つていることが認められるけれども、右自宅で使用した光熱費が原告の事業用のものであることを窺わせる前掲甲第四号証の記載内容及び原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。却つて、所得税法四五条一項、同法施行令九六条によれば、家事関連費については、その主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要があり、かつ、その必要がある部分を明らかに区分することができる場合に事業用の必要経費と認められ、また基本通達四五の二は、右にいわゆる主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であるかどうかは、その支出金額のうち、当該業務の遂行上必要な部分が五〇パーセントを超えるかどうかによつて判定するとしている。ところで、本件では、原告は、前述の如く、大阪市浪速区にその事業用の事務所を有しているのであるから、他に特段の立証のない本件においては、原告がその自宅において一部その事業を遂行することがあるにしても、その割合は極めて少ないものと認めるのが相当である。

そうすれば、原告がその自宅において使用した光熱費は、原告の事業用とは認め難いから、原告の昭和五五年分の光熱費は金六万二五六七円というべきである。

(4) 交際費

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二四、二五号証、同第二七号証、同第二八号証の一ないし三、原告本人尋問の結果(但し、後記信用しない部分は除く)、並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五五年中に、合計金二万五五五一円の接待交際費を支出したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、右以外にも合計金一八万七二五一円の交際費を支出したと主張するが、右原告の主張事実に副う前掲甲第四号証の記載内容及び原告本人尋問の結果はたやすく信用できない。

また、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二三号証の一ないし一一、同第二六号証によれば、甲第二三号証の一ないし一一の各請求書の作成者である天美屋酒店の住所は、松原市天美北三丁目であり、また、甲第二六号証の領収証の作成者である「愛」の住所は大阪市住之江区東加賀屋四丁目であつて、いずれも大阪市浪速区の原告の事務所よりも、大阪市住之江区の原告の自宅に近いことが認められるから、右請求書及び領収証に記載の各金員は、いずれも原告の事業用に支出したものとは認め難い。

さらに、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二九号証の一ないし二三の出金伝票は、いずれも、原告が一方的に作成したものであるから、これらの出金伝票をもつて、原告が右出金伝票に記載のとおりの接待交際費を支出したものとは到底認めることはできない。

そして、他に、交際費に関する右原告の主張事実を認め得る証拠はないから、昭和五五年分の原告の接待交際費は合計金二万五五五一円であるというべきである。

(5) 通信費

前掲甲第四号証、原告本人尋問の結果及び成立に争いのない甲第八号証の一ないし一一、原告本人尋問の結果によれば、原告は、その事業用の通信費として、昭和五五年中に、合計金三万六四九一円を支払つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、前掲甲第四号証、同第五号証の一ないし六、原告本人尋問の結果によれば、原告は、その自宅における通信費として、昭和五五年中に合計金三万〇五三〇円を支払つたことが認められるけれども、右自宅分の通信費については、これが事業用であることを窺わせる前掲甲第四号証の記載内容及び原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。却つて、右自宅分の通信費については、前記光熱費について述べたと同様に、所得税法四五条同法施行令九六条等により、原告の事業用のものと認めることはできないものというべきである。

よつて、原告の昭和五五年分の通信費は合計金三万六四九一円というべきである。

(6) 消耗品費

前掲甲第四号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第九号証の一ないし三、同第一〇号証の一ないし三、同第一一号証の一ないし六、同第一二号証の一ないし二三、同第一三号証の一ないし三、同第一四号証の一ないし二三、同第一五号証、同第一六号証の一ないし一〇、同第一七号証の一ないし四、同第一八号証の一ないし六、同第一九号証の一ないし三、同第二〇号証の一、二、同第二一号証の一ないし四、原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五五年中に、その事業に必要な画材、現像焼付用の薬品、伝票類等の物品(消耗品)として、カメラのナニワや丹青堂その他から、合計金一一万八一一三円相当の物品を買受けてその代金を支払つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、右の外にも金五八三〇円相当の消耗品を買受けたと主張するが、右原告の主張事実に副う前掲甲第四号証及び原告本人尋問の結果はたやすく信用できない。なお、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二二号証の一ないし一七は、いずれも原告が一方的に作成した出金伝票であるから、これによつて、原告が右出金伝票に記載のとおりの金額を支出したものとは到底認め難く、他に、右金五八三〇円の消耗品費を支出したことを認めるに足りる証拠はない。

そうとすれば、原告の昭和五五年分の消耗品費は、金一一万八一一三円というべきである。

(7) 交通費

前掲甲第四号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第三〇号証の一ないし一七四、同号証の一七六ないし二八三、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。すなわち、原告は、昭和五五年中に、大阪市住之江区の自宅から大阪市浪速区の事務所に通勤し、また、その得意先にも行くなどして、相当額の交通費を支出したこと、そして、その額は、合計金二三万〇四二二円であること、(なお、右交通費の合計額は、甲第三〇号証の二六の合計額を金五六〇円、同号証の二七の合計を金六四〇円、同号証の三九の合計額を金五四〇円、同号証の四二の合計額を金六四〇円、同号証の四四の合計額を金六八〇円、同号証の四六の合計額を金六八〇円とし(一部抹消されている部分を控除したもので、原告が昭和六〇年六月四日の準備書面で減額したもの)、また、甲第三〇号証の三三、三五の恵美須と野田阪神間の交通費を、甲第三〇号証の五一、七六、八二と同額の各金二四〇円とし、さらに、甲第三〇号証の一四のタクシー代金八七〇円を始め、同号証の一九、二八、二九、九八、一〇〇、一〇四、一三一、一三七、一四二、一四九、一八三、一九二、二〇五、二五七、二五八、二六五、二六七に各記載のタクシー代合計金二万六六八〇円を除いて、前記甲号各証に記載の金額を合計して算出したものである)が認められる。そして、右タクシー代については、当然領収証をもつてその支出を証明すべきであるのに、右領収証が提出されていないから、右タクシー代については、前記甲号各証からは、その支出を認めることはできないというべきであるし、また、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第三〇号証の一七五によれば、右一七五には、行先が書いていないことが認められるから、同号証に記載の金額が旅費交通費として正当に支出されたものとは認め難いものというべきである。

したがつて、昭和五五年分の原告の旅費交通費は合計金二三万〇四二二円というべきであつて、これに反する前記甲第四号証の記載内容及び原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に、旅費交通費に関する原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(8) 減価償却費

原告は、原告の昭和五五年分の減価償却費として金七万五〇〇〇円があると主張するが、原告の右主張事実に副う前掲甲第四号証の記載内容及び原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(9) 雑費

原告は、原告の昭和五五年分の雑費として金六万二一〇〇円があると主張するが、右原告の主張事実に副う前掲甲第四号証の記載内容及び原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

なお、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三二号証によれば、原告は、昭和五五年一〇月に薬を購入していることが認められるが、右薬代は、原告の事業用のものとは認め難いから、これをもつて、原告の昭和五五年分の雑費と認めることはできない。よつて、右原告の主張は失当である。

(10) 研修費

原告は、昭和五五年分の研修費として金一三万二〇〇〇円を支出したと主張するが、右原告の主張事実に副う前掲甲第四号証の記載内容及び原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

もつとも、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三三号証の一ないし三、原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五五年中に、訴外日立クレジツト株式会社から買受けた教育機器の代金として合計金一三万二〇〇〇円を支払つたことが窺われるけれども、他方成立に争いのない乙第一六号証の一ないし三、並びに、弁論の全趣旨によれば、右教育機器は、英会話教育機器であるテープレコーダー及びテキスト一式であることが認められるから、原告の業務の遂行には直接必要なものては認め難く、右教育機器が原告の業務の遂行上必要であるとの事実に副う原告本人尋問の結果は、たやすく信用できないものというべきである。よつて右原告の主張は失当である。

(11) 本代

前掲甲第四号証原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三四号証ないし第四一号証、原告本人尋問の結果によれば、昭和五五年中に、その営むデザイン業に必要な本として、代金一万〇一八〇円相当の服飾関係、デザイン関係の本を買受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうとすれば、原告の昭和五五年分の本代は金一万〇一八〇円というべきである。

(12) そうとすれば原告の昭和五五年分の一般経費は、光熱費合計金六万二五六七円、交際費合計金二万五五五一円、通信費合計金三万六四九一円、消耗品費金一一万八一一三円、交通費金二三万〇四二〇円、本代合計金一万〇一八〇円の以上総合計金四八万三三二四円であるというべきである。

したがつて、原告の昭和五五年分の右一般経費合計金四八万三三二四円が、同年分の売上金三四二万八〇六〇円に占める割合、すなわち一般経費率は、一四・〇九パーセント(端数は切捨て)というべきである。

48万3324円÷342万8060円=14.09

(三)  本件各係争年分の一般経費

被告は、本件各係争年分の経費については、その直前である原告の昭和五一年分の一般経費率を用いて算出するのが合理的であると主張し、原告は、その直後である原告の昭和五五年分の一般経費率を用いて算出するのが合理的であると主張するが、他に特段の立証のない本件においては、右のいずれか一方の一般経費率を用いて本件各係争年分の一般経費を算出するのは合理的でなく、むしろ前記認定の原告の昭和五一年分の一般経費率と同五五年分の一般経費率の平均値をもつて、本件各係争年分の一般経費を算出するのが相当である。

そして、昭和五一年分の一般経費率七・五六パーセントと昭和五五年分の一般経費率一四・〇九パーセントの平均値は、一〇・八二パーセントであるから、本件各係争年分の一般経費は、次のとおりの額となる。

昭和五二年分 金六〇万八五四一円

562万4230円×0.1082=60万8541円

昭和五三年分 金三七万八二六七円

349万6000円×0.1082=37万8267円

昭和五四年分 金三二万六〇五五円

301万3450円×0.1082=32万6055円

3  給料賃金

原告の昭和五二年分の給料賃金が金一七二万円であることは当事者間に争いがない。

4  地代家賃

原告の本件各係争年分の地代家賃が、別表(二)の「地代家賃」の欄に記載のとおり、昭和五二年分が金四五万六〇〇〇円であり、昭和五三年分が金四八万円であり、昭和五四年分が金三八万七〇〇〇円であることは、いずれも当事者間に争いがない。

5  外注費

(一)  昭和五二年分の外注費

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四七号証の一ないし八、同第四八、四九号証、原告本人尋問の結果、並びに、弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五二年中に、訴外イチイこと市位清輔、同株式会社笙文堂、同アドフオード・タカギに、その仕事の一部である写植、紙焼き等を外注に出し、右外注費として、訴外イチイに合計金六六万四一七〇円を(甲第四七号証の一ないし八)、訴外株式会社笙文堂に金一〇万七五〇〇円を(甲第四八号証)、訴外アドフオード・タカギに合計金四万円(甲第四九号証)を、それぞれ支払い、以上合計金八一万一六七〇円を支払つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうとすれば、原告の昭和五二年分の外注費は、金八一万一六七〇円であるというべきである。

なお、被告は、原告の昭和五一年分の外注費率と昭和五四年分の外注費率を平均した比率を基準とした推計により、原告の昭和五三年分の外注費を金六九万八五二九円であると主張しているが、原告の昭和五二年分の外注費は、右の如く実額が認定できるから、右推計による被告の主張は失当である。

(二)  昭和五四年分の外注費

次に、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第五一号証、同第五二号証、同第五三号証の一ないし五、同第五四号証の一、二、同第五五号証の一ないし三、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一二、一三号証、原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、原告は、昭和五四年中に、訴外有限会社かとう写植、同KAD、同辻泰弘、同アドフオード・タカギ、同原ツトム、同原功、同イチイこと市位清輔等に、その仕事の一部を外注に出し、その外注費として、訴外有限会社かとう写植に金一五〇〇円を(甲第五一号証)、訴外KADに金五〇〇〇円を(甲第五二号証)、訴外辻泰弘に金一一万一〇〇〇円を(甲第五三号証の一ないし五)、訴外アドフオード・タカギに金四万〇六〇〇円を(甲第五四号証の一、二、乙第一三号証)、訴外原ツトムに金九万五〇〇〇円を(甲第五五号証の一、三)、訴外原功に金四万五〇〇〇円を(甲第五五号証の二)、訴外イチイに金二三万一一五〇円を(乙第一二号証)、それぞれ支払い、以上合計金五二万九二五〇円を支払つたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうとすれば、原告の昭和五四年分の外注費は、実額で、金五二万九二五〇円であるというべきである。

なお、原告は、原告の昭和五五年分の外注費率を基準とした推計により、原告の昭和五四年分の外注費は、金六三万〇七一五円であると主張しているが、前記の如く、原告の昭和五四年分の外注費は、右実額により認定できるから、右推計による原告の主張は失当である。

(三)  昭和五三年分の外注費

前記に認定した原告の昭和五二年分の外注費金八一万一六七〇円の同年分の売上金額金五六二万四二三〇円に占める割合すなわち外注費率は一四・四三パーセントであり、また、原告の昭和五四年分の外注費金五二万九二五〇円の同年分の売上金額金三〇一万三四五〇円に占める割合すなわち外注費率は一七・五六パーセントである。

ところで、原告の昭和五三年分の外注費については、これを実額で認定できる証拠はないから、推計によらざるを得ないところ、右昭和五三年分の外注費は、前記五二年分の外注費率一四・四三パーセントと昭和五四年分の外注費率一七・五六パーセントの平均である一五・九九パーセントを右昭和五三年分の売上金額金三四九万六〇〇〇円に乗じて算出するのが合理的であるというべきである。そして右の方法により算出した原告の昭和五三年分の外注費が金五五万九〇一〇円となることは計算上明らかである。

そして、以上の如く、原告の昭和五二年分及び同五四年分の外注費が実額で認定できる本件においては、右以外の推計方法による原告の昭和五三年分の外注費についての原告及び被告の主張は、いずれも失当であるというべきである。

よつて、原告の昭和五三年分の外注費は、金五五万九〇一〇円であるというべきである。

6  事業所得金額

以上認定の原告の本件各係争年分の売上金額から、一般経費、給料賃金、地代、外注費を控除して、その事業所得金額を計算すると、その額は、次のとおりとなる(その計算関係は別表(八)に記載のとおりである)。

昭和五二年分 金二〇二万八〇一九円

昭和五三年分 金二〇七万八七二三円

昭和五四年分 金一七七万一一四五円

五  課税所得金額

原告の本件各係争年分の医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、扶養控除、基礎控除の額が、別表(五)の右各費目欄に記載のとおりの額であることは当事者間に争いがない。

したがつて、原告の本件各係争年分の事業所得金額から右医療費控除額、社会保険料控除額、生命保険料控除額、扶養控除額、基礎控除額をさし引いた課税所得金額は、次のとおりである。(国税通則法一一八条一項により金一〇〇〇円未満切捨て)

昭和五二年分 金一〇八万一〇〇〇円

昭和五三年分 金九七万二〇〇〇円

昭和五四年分 金一三六万一〇〇〇円

六  結論

そうとすれば、本件各更正処分等のうち、昭和五三年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は、右認定の事業所得の範囲でなされたものであるから適法であるというべきであるが、昭和五二年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は、前記に事業所得金額金二〇二万八〇一九円(課税所得金額は一〇八万一二五二円)を超える部分は違法であり、また、昭和五四年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち前記認定の事業所得金額金一七七万一一四五円(課税所得金額は金一三六万一一一七円)を超える部分は違法であるから、取消を免れない。

よつて、本件各更正処分等の取消を求める原告の本訴請求は、昭和五二年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち事業所得金額金二〇二万八〇一九円を超える部分、及び、昭和五四年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち事業所得金額が金一七七万一一四五円を超える部分の取消を求める限度で正当であるから、右の限度で認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用につき行訴法七条民訴法八九条九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 村岡寛 裁判官大沼容之は病気のため署名押印ができない。裁判長裁判官 後藤勇)

別表(一)

<省略>

別表(二)

<省略>

別表(四)

<省略>

別表(三)

<省略>

別表(五)

<省略>

(注)昭和52年分の「<11>還付金の額に相当する税額」欄の外書は特別減税額である。

別表(六)

<省略>

一般経費率

1,102,644÷3,428,060×100=32.16%

外注工賃の売上に対する割合

717,500÷3,428,060×100=20.93%

別表(七)

<省略>

別表(八)

<省略>

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